今年のビート、今年のうちに
2019年あったこと
今年は紐を解いて程なく結び方を変えてまた結ぶようなことを繰り返す年だった。
僕は変化はあれど本質は変わらず、ビートを刻んでいた。
2019年はやおをめぐるトピック(再放送有り)をメモみたいに書いておこうと思う。
《1》
ドラムのプレイスタイルが気がついたら変わっていた。
新しくバンドが始まったことに起因しているけれど、ダイナミクスがとても気になり、それを中心にドラムを構築しなおして、厚さ薄さの表現を追求するうちに変化していた。
特に日本のドラマーは腕の技術に気を取られて足のダイナミクスは疎かにされがちなイメージがあって、もちろん自分も例外ではなく、そういうところから、一からやり直した。
なんというか当然なんだけど、技術とダイナミクスの先に感情の表現が待っているので、そこを目指しながら腹筋は鍛えていたけれど側筋は鍛えていなかったことが分かったというか、結果的に表現の選択肢が増えてきているなと思っている。
16ビート専門店からビート総合店になったみたいな気持ちになっている。日々精進せねば。
《2》
止まったもの。Emu sickSについて。
今年の1月12日に活動休止になり、時間の隔たりが日に日に増して、少しずつ記憶がふやけてきている。
活動休止の決断がどう作用して、どのような結果を生んでいくのかは現時点でも如何とも判断し難いところはあるけれど、どのように向き合っていくか、向き合った上でどのように行動するか、ということは次第に示されていくはずだ。
ともかく活動休止とZOOZを始めたことによって、ある種僕の肩書がかわるというか、見え方が変わることで色んな箇所の色んな人間関係がいくらか変わったり変わらなかったりした。
変わったから相手のことを嫌いになるとかそういうことじゃなくて、逆によりクリアになるというか、「あの人は普段こういうことを重要視して生きているんだな」ということが浮き彫りになって興味深くなった。
人間の心理なんて表面上いくら隠しても実際のところはダダ漏れである。
《3》
6月にZOOZが始動した。
Emu sickSの活動休止をきっかけに僕から声掛けをして動き出したんだけれど、当初僕がイメージしていたよりも4人の化学反応が大きく、音楽的願望が次々生まれるようになった。これだからバンドは良い。
ZOOZはポストパンク・リヴァイヴァル・リヴァイヴァルを掲げているんだけど、それはもはやバンドの音楽的コンセプトというよりももっと内在化した「心意気」みたいなもので共有されている。先人達が作り上げてきたものをリスペクトし、自分達はどう音楽に昇華していくか。そういう部分で自分達と闘っている。
そういった心意気でバンドをしていると、日々の小競り合いは本当にどうでも良くて、本来求められているかっこいい音楽を追求したいという気持ちが直線的に沸き起こっている。そこには見栄の張り合いや上手さのマウントの取り合いはなくて、良いものをどうやって表現するか、文化との対峙、自分との対話をつづける日々があって、それに取り組んだ1年だった。きっとこれからもそうだし、悩み続けるけれど清々しい日々は続く。結局は自分で自分を救うために音楽をやっているのかもしれない。
《4》
12月にTHE SALARYMENが始動した。
去る3月に解散した完全にノンフィクションの別所さんとのユニット。ライブを打たない、音源は基本無料、規約内ではどのように使用してもOK、アコースティックギターとドラムのインスト、音源を日々アップしていく、という一見何を目指しているのか分かりにくくて掴みどころのない活動だと思う。けれど自分達の中にはしっかり一本筋は通っている。
別所さんは、断然僕よりもライブハウスを基軸としたシーンで闘ってきただけあって、ライブハウスの良い面も悪い面も、そして時代の趨勢も分かっているし、俯瞰して自分の音楽を捉えて、その中にライブハウスをあくまで一要素として見る「引き」の視点も持っている。
あとはよく「一生音楽をするには」なんてこともよく話あった。不健康にお酒を酌み交わして寿命をすり減らしながら、なるべく長く一生音楽をすることを考えるという進行形の矛盾は孕むものの、自分達の生活に根ざすため、総合音楽とてもいうべきスタンスから活動することになった。定期的に音源がアップされていく予定だ。
《5》
京都のWEBマガジン、アンテナにお世話になった1年だった。
ZOOZのインタビューもしていただいた。僕はシンプルに活字メディアが好きだ(文学部の血)。
対話の中で自分の思考が可視化されていくのは非常に良いなと思うし、その節目節目で曖昧なイメージではなくて第三者を介した明確な言語で考えを線引されていくのはとても必要なことだなと思う。
そんなアンテナの年末企画で「2019年の5曲」をZOOZとして選出した。
バンドとして選出したのはFoalsのSundayという曲。あとの4曲は各メンバーによる推薦。
僕は大学のときにFoalsにハマり、コピバンもしたし、ドラムスタイルも大いに影響を受けた(後はDeerhoofにも相当な影響を受けている)。そして彼らはポストパンク・リヴァイヴァルと名付けられるブームを牽引してきた。
10年近くが経って、今なお精力的に新譜を出して文化を刷新しながら自答し深化を続けていく姿を非常に羨ましく思うし、感服しているし、音楽というよりも、生き方の本質はここにあるんじゃないかと思ったりしている。
今年Foalsのツアードキュメンタリー映画“Rip Up The Road”を見て、感動した。
(Amazon Primeから見れる)
「2年かけて作った音源が数ヶ月で消費されてしまうこと」と闘いながら、2019年にミュージシャンである意味、音楽とビジネス、時代を自問しながらツアーをするFoals。ああ、こういうのを待ってたんだよ、と思った。
話はそれたけど、アンテナの企画に僕が選出したのはキム・ゴードン。
音楽全体の中でドラムの位置づけを相対化することで、ドラムと切っても切れない関係の自分という呪縛から解放しようとしていた。
今まで気がついたら「ドラマーを必要としない音楽」を排除していたので、自分の聴く音楽の世界がとても狭くなっていた。
久々にクラフトワークを聴いて、当時は引っかかりもしなかったことに引っかかり、そこから改めて色々探し始めた。
そんななかでバチッときたのがソニック・ユースのベーシスト、キム・ゴードンのソロプロジェクトだった。なので選出してみた。なので振り返る意味でもアンテナのお歳暮企画は楽しかったし、ZOOZメンバーで好きな曲を今一度話すのも良かった。
ともかく、今年は一度自分を縛っていたものをほどき直して、また結んでを繰り返していた。
来年は、また面白くなりそうなので、しっかりと自分を鍛えて、ビートでインフルエンザや停滞する日本の空気感を振り払って明るく刻んでいきたいと思う。